Ajisashi

毎日行くカフェがある。
浅煎りしか置いていないカフェだ。
日によってエスプレッソの味は変わる。
人によっても変わる。
空気によっても変わるのだろうか?

僕はコーヒーが大好きで、6年くらいハンドドリップでコーヒーを淹れている。
いつか自分のお店を開いてみたいからだ。

思えばソフトウェア会社を始めた頃に欠かせないカフェインを美味しく安く体に淹れようとした事が発端かもしれない。
一つのことにこだわって研究し、極める。
それをみんなで話し合う。
会社を始める時にみんなと同じ時間を共有するのはとても大切だ。コーヒーは人を繋げる。

ハッキングも同じだ。
毎日向き合い、調整し、不具合があれば治す。
時に閃く。
まるである一つの通信プロトコルのプロトタイプを書いている時に別のUDPプロトコルの通信方法を思いつくみたいにだ。
プログラムもまた人を繋げる。

ハッカーの精神とバリスタの精神は実は似ているのかもしれない。

そんな僕は奇妙な体験をした。

僕はお酒があまり好きじゃなかった。
アルコールが入ると、気が緩む。
思えば会社を始めた頃から気が緩む事はほぼなかった。
常に考えている。

どうすればRedisでキャッシュしているUUIDを全てのピアに上手く通知できるか?
gRPCのストリームを使い、スキーマを駆使し、型安全に非同期的に通信する方法は?
何をしていてもこういった考えは頭からは離れない。

通っているカフェは夜はバーに変わる。
仕事が長引いたら、夜に訪れる事もある。
そんな時にある2人のバーテンダーと仲良くなり、カクテルを振るまってくれた。

シェイカーの中で振るえる氷の音。
フレッシュなフルーツの味。
アルコールという水分とは違う質量の調整。
シェイクする回数の間隔。

再現性が限りなく0に近い、毎回違う味。
美味しい。
お酒が好きになった。

美味しいと思ってもらうために自分のレシピの再現性を高めるために、日々努力をする。

プログラムは仕様が変わらない限り、再現性は100%だ。

彼らの仕様は毎日変わる。

スーパに売っている果実。
店内の湿度。
温度。
その日の自分の味覚。
相手の味覚。

変数が僕より圧倒的に多い世界で挑戦している。
そんな彼らに尊敬を覚えた。

バーテンダーもハッカーと同じ精神を持っているのだろうか?
その答えを人生と共に成長を感じながら見つけられる事を大変幸せに思う。

そんな彼と彼女は旅立ってしまった。
新たな境地に行くのだろう。

僕が良いプログラムを書いたら、少なくとも君たちのおかげだ。

skål.